達人の働き方Vol.3
株式会社ナンバー 渋谷 泰一郎さん

株式会社ナンバー 渋谷 泰一郎

2014年から個人事業として独立。多数サイトのKPI設計からアクセス解析、改善案の提案までを手がける。

株式会社ナンバー 渋谷 泰一郎

Webマーケティング業界で活躍されている達人の働き方を、プリンシプル取締役副社長兼人事部長の木田和廣がインタビュー。達人を目指す人たちに向けてメッセージを橋渡しする連載です。第3回目は、アナリティクスディレクターとして活躍されている株式会社ナンバーの渋谷泰一郎さんです。

木田:渋谷さんは、次世代のアナリティクスリーダーの一人だと思っています。まず、どんなお仕事をされているかおしえてください。

渋谷:Webアナリストという仕事をしています。お客様のHPに毎日何人の人がきて、何人が問い合わせてきたか、ECサイトであれば、毎日何人訪問して、何人が何を購入したかといったWebアクセスログというユーザーデータを計測分析します。そしてサービスや企業名をより知ってもらうための施策や、またサイトに来てもらうための施策を提案をしています。

木田:コンバージョンを増やす方法にはSEOやWeb広告もあると思いますが、渋谷さんの会社ナンバーさんでもこれらに対応されているんですか?

渋谷:当社の社員は私一人なので、アナリティクスは私が行い、必要に応じてパートナーと協力して、SEOやWeb広告、サイト内改善、CRMなどの各施策を実施しています。私がハブとなって適切な人に参画してもらっているイメージですね。

ちょっと偉そうな例えになってしまい恐縮ですが、例えば弊社が(ウェブマーケティングの)総合病院だとして、まず私が問診を行い、自分の専門領域以外で具合が悪そうな部分があればその部分の専門医にも診てもらい、病院全体として適切な薬の処方や治療を進めていく、といったイメージです。

木田:ハブになるには、広範囲な知識が必要かと思いますが、どのようにキャリアを築いてこられましたか。

渋谷:運営堂の森野さんと似ているのですが、ひたすら目の前のことをやってきたら、今の状態に落ち着いてきたというのが正直なところです。タグマネージャーやBIなど新しく出てきたことを日々学習して対応していたら今のキャリアになりましたね。

独立する際、森野さんに相談していた経緯もあり、「断らずにとにかくやる、考えすぎずにまずやってみる」といった森野イズムの影響は受けていると思います。

木田:仕事のニーズの高まり、将来性、安定、お客様の広がりはいかがですか。

渋谷:2020年のコロナ禍において、インターネットを活用してこなかった事業者さんは「急いでEC化しなければ」ということで、ご相談に来てくださいました。一方、旅行やオフラインがメインだったお客様は、契約終了せざるを得なかったので、増えたところと減ったところと分かれた印象です。弊社事業でいうと、ニーズは増えてきています。

木田:戻りますが、社会人になられたときは、どんなお仕事からはじめましたか。

渋谷:学生時代はぼんやりとCM制作に憧れていましたが、何の技術も経験も無かった私がいきなりCM制作に関わる仕事に就けるわけもなく、大学卒業後、紙媒体の制作からキャリアをスタートさせました。

初めてアクセスログに触ったのは、楽天に入社し、Infoseekというポータルサイトのニュース事業部でディレクターをしていた時です。ちょうど、SiteCatalyst(サイトカタリスト)が導入されるタイミングでした。

その後、広告代理店グループに4、5年在籍し、Webアナリストとして分析、改善施策レポートを作る経験を積み、独立したという流れです。

制作メンバーから一緒に作るディレクション側へ、そしてマーケティングプランや分析する担当者になり、様々なレイヤーの仕事をしてきた背景があります。それらの経験が今の仕事にいきていると思います。

木田:渋谷さんなりの仕事上の流儀があればおしえてください。

渋谷:お客様目線で、最適な提案をするということを心がけています。アクセス解析という領域の性質と、完全な独立組織としてツール等に制約が無いといった立ち位置もあり、お客様と同じ目線で「今本当に必要なものは何か」を考えることができ、会話することができます。

例えば、仮にツールベンダーさんの場合、基本的には「自分達のツールを用いたビジネス支援」といった提案になってくるかと思います。しかし弊社は特定のソリューションや施策にこだわらず、採用や組織改善に力をいれた方がいいといったアドバイスをする時もあります。長くお付き合いがあるお客様からは、そういった率直な提案に対して評価をいただいています。

木田:外部のコンサルタントという立場から、他部署などに忖度する必要がなく、Googleアナリティクスの数字で事実が見えてしまいますから、その数字を元に、公平・公正に、本当にお客様のためになるようにと近づいていきますよね。

木田:独立するのは大きなチャレンジだったと思いますが、怖れなどありましたか。

渋谷:独立前に働いていた組織に対し、自分がきちんと貢献できなくなってきてしまっていました。独立について妻には事後報告でした。妻は当時公務員で収入が安定していた為、私としては「最悪なんとかなるだろう」と楽観的でした。一方妻は、子供がまだ小さかったということもあり、不安でいっぱいだったと思います。典型的なダメ夫でした、非常に反省しています。

独立当初は森野さんに仕事を紹介していただいて助けていただきましたし、また、周りの方のおかげで人に恵まれ運がよく、アクセス解析で困っている事業者や代理店、制作会社の方々からお仕事の相談をしていただきました。おかげで早めに売り上げが少しずつ立つようになりました。

木田:Web解析は営業しにくい商材ですよね。

渋谷:相談から始まるケースが多い領域ですね。ありがたいことに右肩上がりですが、 営業してとってきたことがほぼなく、売上収益は計画的でないんですよね。

木田:Web解析は、ダイエットしたい人に体重計を売るようなものですからね。サプリメントや運動でも痩せるので、体重計は乗らなくてもいいんですけど、正しい体重計で計測しないと太っているのか、痩せているのかもわからない。Web解析も同じようなものです。

木田:今後、渋谷さんご自身、会社として、3年後、5年後、どのような方向性で行くか考えていらっしゃいますか。

渋谷:アクセス解析を中心とした現在弊社が提供しているサービスは、Webサイトの集客、サイト内改善、CRMといったWebマーケ領域の改善はできますが、根本的な課題が他にあった場合(例えば製品/サービスそのもの、組織、戦略など)、いくらWebマーケに力を注いでもそのビジネスインパクトは限定的となります。

そのため、ビジネスインパクトをしっかり出すために、もう少し上のレイヤーからサポートできるようになりたいと思っています。オンラインだけでなくマーケティング戦略、事業戦略から関わっていけるようになりたいなと。

そういった思いもあり、2020年には株式会社顧客時間とパートナーシップを結びました。顧客時間の共同CEOである奥谷さんとの出会いは2014年のアナリティクスサミットでした。(a2i主催)パートナーシップにおいて、顧問時間さんがクライアントの新規事業立ち上げ、マーケティング戦略、事業戦略を担当し、私がデータを活用して、サービスやプロダクトに改善提案をするということを一緒にやっています。自社単体でも、ある程度上流の設計やコンサルティングもやれるようにしていきたいと考えています。

広い見識があり、かつ一つの分野に深い知見がある人材のタイプを「T型人材」と呼ぶことがありますが、私はアクセス解析領域でTの縦線の部分の力をつけてきました。横の部分は顧問やパートナーなど周辺の方に補完してもらい集合体になっています。

今後は自社のカバーするコンサル領域を、より上流のマーケティング全体の設計支援まで広げていきたいですね。漢字でいうと「干」という形になると思います。そのためには、まだまだリーダーシップや自分の知識や経験が不足しているので、計画的に「干」の上の横の線を補強していく予定です。

木田:やりたいビジョンとアクションがともなっている人は信用できますよね。大変だと思いますが、やってみるというのは素晴らしいと思います。育児、仕事とのバランスをとりながらで大変かと思いますが、人生の中で頑張り時なのかもしれないですね。

渋谷:2020年にバセドウ病にかかりました。現在は既に症状はまったくなく、ほぼ薬の必要もなくなりピンピンしていますが、今後も自分や家族にいつ何があるか本当に分かりません。なので「やりたいことがあるなら、できるうちにやっておこう」の精神のもと、現在はビジネススクールへの進学を検討しています。

Web解析の第一世代である木田さんや森野さんは「口だけでなく、実際に行動する」という姿を見せてきてくださっているので、その影響を大きく受けています。

木田:最後に、就活・転職活動されている方へメッセージをお願いします。

渋谷:データを活用したビジネスはさらに拡大するので、多くの若い人にこの業界に入ってきて欲しいです。私とはSNSで接点を持てると思いますので、自分が興味を持ってやっていけるのかなど、気軽に声をかけていただきたいです。まずは、この業界に興味を持って欲しいですね。

この仕事は、年々重要になっていくと思います。世の中に様々なデータが増え、データを整え、使えるようにして、ビジネスに活かせるようにし、ビジネスが伸びるかどうかの明暗を分けるような重要なポジションであると感じています。

真剣に取り組んで得られるものは多いです。データサイエンティストやデータ分析と聞くと敷居が高く感じられるかもしれませんが、高度なことをするだけがこの領域のすべてではありません。むしろそういった領域は全体のごく一部なので、少しでもご興味持って頂けましたら、ぜひ、気軽に声をかけてください。

経歴

Webと紙媒体の制作会社を経て、ポータルサイトのニュースサービスを担当。その後、広告代理店にてWebアナリストとしてクライアントのWebサイト、広告、SNS、スマートフォンアプリの分析および解析を担当する。2014年から個人事業として独立。株式会社ナンバーを設立。大規模サイトから中小のWebサイトまで、多数サイトのKPI設計からアクセス解析、改善案の提案までを手がける。

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データ解析コンサルタント 久保 友宏
前職では、統計解析ソフトSASのエンジニア・アナリストとして金融業界のクライアントを担当。2020年プリンシプルに入社。

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UI/UXデザイナー Diane Wang
UI/UXデザイナー。新卒からインハウスWebデザイナーとして8年間活動。プリンシプルでは広告向けの制作全般、定性調査、UX改善提案を担当。

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デジタルラグーン

デジタルラグーン 代表取締役  小田 啓介
株式会社デジタルラグーン 代表取締役。プリンシプル広告チームマネージャーを経て2021年より現職。大手流通企業へのWeb広告・Googleアナリティクスコンサルティング及び、クライアント先常駐経験を持つ。